広がる「赤ちゃんの駅」 授乳やおむつ交換の場提供 地域で子育て支援

10月21日15時15分配信 産経新聞

 乳幼児連れの母親が外出時に気軽に立ち寄れる「赤ちゃんの駅」が、各地に広がっている。母親が安心して移動できるよう、公共施設などの一部を活用し、授乳やおむつ交換の場を提供する。予算がかからず地域ぐるみで子育て世代を支える取り組みとして、注目を集めている。(中曽根聖子)

 東京都板橋区が子育て支援の一環として、「赤ちゃんの駅」を開設したのは平成18年6月。区立保育園や児童館などの一角をカーテンなどで仕切り、おむつ交換と授乳のためのスペースやミルク用のお湯を提供する事業で、現在は区立の施設のほか、私立幼稚園やNPO法人運営施設など125カ所に拡大した。実施施設の玄関先には、目印となる表示旗を掲げ、保護者が立ち寄ると職員らが利用場所に案内してくれる。

 板橋区のグリーンホールにある「赤ちゃんの駅」で、生後10カ月の男児のおむつ替えをしていた主婦(30)は「インターネットなどで授乳できる場所を事前に確認しないと、怖くて遠出ができない。こういう施設が日本中にあると安心」と喜ぶ。

 親子連れに好評で、1カ月に20人以上が利用する施設もある。立ち寄ったついでに育児の悩みを保育士らに相談するケースもあり、母親のストレス解消にも一役買っているという。

 埼玉県本庄市も5月から、「赤ちゃんの駅」事業をスタート。保育園や公民館など市の施設のほか、警察署や税務署、ホテルや商店に協力を呼びかけ、市内約90カ所に開設した。市子育て支援課では「この取り組みをきっかけに、地域ぐるみで子育てを応援する機運を盛り上げていきたい」としている。

 10月には、板橋区の制度を参考にした北九州市が市内約130カ所に開設。こちらは公共施設に加え、日産自動車系の販売店やヤクルト販売センターなど民間事業所も参加している。

 板橋区には首都圏をはじめ全国の自治体から視察や問い合わせが相次いでおり、区子ども家庭支援センターの沼俊一さんは「既存の施設を有効利用することで、予算をかけずに育児支援ができるので注目度が高いのでは」とみている。事実、事業初年度の予算は、表示旗100枚分の制作費約16万円だった。

 「こども未来財団」(東京都港区)が実施した、子育て中の母親の外出実態調査(16年)によると、「いろいろなところに積極的に外出したい」「不安なく行ける場所であれば外出したい」が計97%と外出意欲は高いのに、実際には1カ月のうち約20日は近所への外出にとどまっていた。

 また、未就学児の保護者を対象にした本庄市の調査(15年)では、外出時の困りごとに「トイレやおむつ交換など親子の利用に配慮されていない」「授乳する場所や必要な設備がない」を挙げる母親が多く、安心して外出できる場所が限られていることが、母親の行動範囲を狭めている実態が浮き彫りになっている。

 NPO法人「子育てひろば全国連絡協議会」(横浜市)理事長で3児の母でもある奥山千鶴子さんは、「段差や階段、混雑した電車など子連れの移動にはハードルが高く、不安を感じる人は多い。子育て世代も安心して外出できるよう、当事者の声を生かして環境整備を一層進めてほしい」と話している。

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