労災隠しが不況下で横行 安全対策費節減などで労働者泣き寝入り

事業所が作業員のけがを労働基準監督署に報告しない「労災隠し」が、静岡県内で後を絶たない。現場監督者の責任逃れだけでなく、長引く不況の中で安全対策の強化といった新たな負担を避けようと、会社ぐるみで事故を隠すケースも目立っている。 (富士通信部・林啓太)

 富士労働基準監督署が9日に労働安全衛生法違反の疑いで書類送検した大宮製紙(富士宮市野中町)と同社の元加工課長(58)。送検容疑は、昨年3月に男性社員=当時(42)=が作業中に左足の小指の付け根の骨を折るけがをしたが、労基署に労働者死傷病報告書を提出しなかった、とされる。

 労基署によると、男性は厚紙の筒を輪切りにしてトイレットペーパーのしんを作る機械の調整を担当。筒を運ぶベルトコンベヤーをまたいで設置されている通路の階段を下りる際に足首をひねって転倒し、負傷した。

 男性は計9日間、仕事を休んで治療したが、労災報告がされなかったため、自己負担が不要な労災保険が適用されず、健康保険を使って治療費の3割を自身で払った。

 労基署によると、事故報告を免れようとしたのは当時の加工課長。容疑を認め「大きなけがではなかったし、監督責任を問われるのもいやだった」と供述している。会社の担当者は「(送検を)厳重に受け止める」と言葉少なだ。

 厚生労働省によると、労災隠しの送検件数は近年、増加傾向にある。2008年は148件と、1999年の74件から倍増した。同省静岡労働局によると県内では08年に11件と、99年の2件の5倍以上だ。

 大宮製紙の事件は、現場の監督者が事故を隠していたことを会社側が後に把握して労基署に報告し、発覚した。だが捜査関係者によると、労災隠しの大半を占めるのは、会社側が積極的に犯行に関与するケースだ。

 建設業者の場合、労災が起きると、労基署から再発防止のため新たな設備投資を指導されることも。国土交通省の経営事項審査でも低い評価を受け、公共事業への参入が難しくなる。不況にあえぐ事業所にとって、これらの経済的な打撃は小さくない。

 「書類送検されて表面化する労災隠しは、まさに“氷山の一角”だ」と捜査関係者。労災隠しが行われても、負傷した従業員の多くは解雇などの不当な処遇を恐れ、自ら労基署に訴え出るのをためらう例が多いと分析する。

 富士労基署は「労災の隠ぺいは、労働者の働く意欲をも奪う重罪。今後も厳しく対処していく」としている。

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