12月11日12時1分配信 毎日新聞
◇人の命助ける仕事を--山本亮輔さん(20)
搭載する小型艇を海面に慎重に下ろす。ウインチを操作する手に力が込もる。釜石港であった貨物船火災の消火訓練。釜石海上保安部の巡視船「きたかみ」(500トン)の右舷で、主計士補の山本亮輔さん(20)は艇が手順通り着水するのを目で追った。
郷里の高知市の県立高校から京都府舞鶴市の海上保安学校に入学。船舶運航システム課程主計コースで1年間、国際法や刑法などをみっちりと学び、今年3月、きたかみに配属となった。
大学進学が多い中、海上保安官を目指したのは潜水士の活躍を描いたテレビや映画「海猿」の影響からだった。「得意の水泳が生かせる。体力にも自信がありました」。迷わずに志望し、競争率十数倍の難関を突破した。
海上保安官は船の乗組員としての仕事のほか、陸でいえば警察・消防・救急の業務を担う。主計コースは調理と事務が主で、夜間当直にこそ立たないが、海の警察官に変わりはない。
配属当初は船酔いに苦しんだ。保安学校での乗船実習が2回だけだったので慣れるまで時間がかかった。船が大きく揺れても体を支え、包丁が上手に使えるまでになった。テーブルに特殊な敷物を敷いて食器を固定させる方法も知った。着岸する時、もやい綱の先端に付いた砂袋のレッド投げも徐々に上達してきた。拳銃や自動小銃の射撃訓練、機関砲の手入れも欠かさない。
釜石市と宮古市で相次いだ磯釣り男性の行方不明事故。出動して捜索にも加わった。年末、警備艇によるパトロールや訪船しての安全指導も重要な仕事。新人は寒さが厳しい船首側甲板での仕事が多くなるのは覚悟の上だ。
「献立は上司の補給長が作りますが、調理した料理をうまいといって食べてくれるとうれしいですね」。眼鏡の奥が人なつっこく笑った。入港日の昼食はなぜかカレーライスが定番。評判がいい。乗組員は全部で24人。集団生活なので、当直明けの人が昼に仮眠している時は冷蔵庫の開け閉め、階段の上り下りなどにも気を使う。
釜石に赴任して8カ月。釜石はどこにあるのかも分からなかったが、今ではマラソン大会にも出場して市民と交流を深める。巡視船の長期整備などの際は休みを取り、3回も帰省した。両親には少しずつたくましさを見せてあげたいと思う。
「夢は潜水士。困難に立ち向かい、人の命を助ける仕事がしたい」。何年後になるか、海猿に成長した姿が楽しみだ。【鬼山親芳】
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◇山本さんの一日◇
5:30 船内起床、掃除
5:50 朝食準備
6:30 全員で朝食、洗い物
7:00 捜査書類の作成、レッド投げ練習
9:30 昼食準備
12:00 全員で昼食
13:00 全員で体操、救難・えい航・総員退船訓練
15:30 夕食準備
17:00 全員で夕食、洗い物
17:30 入浴。自由時間