3月15日19時40分配信 産経新聞
どこか近くでのんびり電車に揺られてみたい-。つかの間の“旅愁”を求め、JR加古川線に乗った。兵庫県南部のほぼ中央を播磨灘へ流れ込む加古川。その中・下流に沿うように伸びる48.5キロの単線軌道は、水量豊かな川にはぐくまれたさまざまな風景を届けてくれる、モダンな「ローカル線」だった。(文・今城敬之)
JR神戸駅から新快速で約30分。加古川駅の階段を下りると、「ここは出口ではありません」と表示された改札口が現れた。加古川線は無人駅が多い。ICカードでの乗車や、乗り越しの場合はここで先に目的駅までの精算を行うのだ。
見慣れない中間改札に、それだけでも遠くに来たような気分になったが、階段を上りまたも驚いた。5番ホームの2両編成、西脇市行きは斬新な色合いのラッピング電車。轟々と音が聞こえてきそうな滝が描かれている。西脇市出身の美術家、横尾忠則さんがデザインした4種類のラッピング電車の一つでテーマは「滝の音、電車の音」なのだという。
電車はワンマン。運転席横には運賃表示板と運賃箱がある。加古川駅を出発した電車は大きくカーブして北へ向かい、住宅街を抜けていく。約10分で昨年3月まで3番ホームに三木鉄道(廃業)が発着していた厄神(やくじん)駅に。
その後大きく左へカーブし厄神鉄橋へ。太いコンクリート柱に支えられた真ん中の約60メートルの部分だけがトラス橋となっている名物スポットで、JR西日本加古川鉄道部によると、遅くとも大正13年12月の加古川線全通時にはこの形だったという。
見晴らしの良い鉄橋から加古川の雄大な流れを満喫できる。右岸に渡ると車窓はのどかな田園風景へと変わった。この辺りは酒米の王様、山田錦の産地だ。
西脇市で谷川行きに乗り換えた。厄神まではおおむね30分に1本、西脇市までは1時間1本だが、ここからは1日9本(土、休日は8本)、1両での運行という、正真正銘のローカル線となる。
日本へそ公園駅で思わず降りた。短いホームと壁1枚の無人駅はまるで映画のセット。東経135度と北緯35度が交差する「日本のへそ」がある公園内には、これまたユニークな外観のにしわき経緯度地球科学館(愛称テラ・ドーム)があった。2階の巨大な天体望遠鏡をのぞくと昼なのにチカチカ光る星が見えた。係員によると「御者座のカペラで地球からの距離は42光年です」。まさかここで自分が生まれた年の光を見るとは思わなかった。
約2時間後、ようやく来た次の電車に乗り福知山線との接続駅・谷川へ。車窓を流れる山あいののどかな風景とは似合わぬほどのスピードで、ワンマンカーは軽快に早春の播磨路を駆け抜けた。