始まりは遠く「天正時代」と伝わるから、勝浦名物の朝市は豊臣秀吉が天下統一に東奔西走していたころから、約430年も続いていることになる。
朝市のある遠見岬神社付近の街路は松井天山の鳥瞰図(ちょうかんず)と大きくは変わらず、春先におびただしい数のひな人形を飾る階段もある。
朝市で軽米恒子さん(66)が「スカンポ」を4本100円で並べていた。酸葉(すいば)(タデ科)の若い芽だ。酸味があり子ども時分には、皮をむいて薄く塩を振って食べた。
「朝市は親の代から。ここじゃ私は若手。朝早いから、昔はちょうちんを下げてリヤカーを引いてきたそうです」
別の店で若い人が、20キロほどのメバチマグロもさばいていた。中骨の肉をこそげた中落ちを買った。
市川市でタウン誌を発行する吉清英夫さん(67)は勝浦生まれの「黒潮の子」。先祖は遠い昔に紀州からイワシを追ってきたそうだ。「家は漁業で朝市で菜っ葉、大根なんかを買っていた。磯の香がすると勝浦は春でした」
朝市でにぎわう町を歩いていたら、絵図にある店のその後を教えてくれる親切な人がいた。店構えは新しくなってはいても、当時と同じ名前を掲げた旅館や店も残っていて、何だか懐かしかった。