大阪母子殺害事件、最高裁が死刑判決を破棄…無罪の可能性

大阪地裁に差し戻し
 2002年4月に起きた大阪母子殺害事件で、殺人と現住建造物等放火罪に問われた大阪刑務所刑務官(休職中)・森健充(たけみつ)被告(52)の上告審判決が27日、最高裁第3小法廷であった。1審・大阪地裁の判決は無期懲役、2審・大阪高裁は死刑判決だったが、藤田宙靖(ときやす)裁判長(退官のため堀籠(ほりごめ)幸男裁判官代読)は「十分に審理を尽くさずに判断したと言わざるを得ず、事実を誤認した疑いがある」と述べて1、2審判決を破棄し、審理を同地裁に差し戻した。

 被告が犯人かどうかが主な争点になった事件で、最高裁が2審の死刑判決を破棄したのは21年ぶりで戦後7件目。今後の審理の展開によっては無罪となる可能性も出てきた。

 森被告は02年11月の逮捕後、捜査段階では黙秘し、公判では「現場のマンションに行ったこともない」と否認。犯行にかかわったことを示す直接証拠は一切なく、状況証拠による立証の成否が争点になっていた。

 現場マンションの階段の踊り場で、たばこの吸い殻が見つかっており、1、2審では、検出されたDNAが被告と一致したことなどから「被告が犯人と推認できる」と判断した。

 これに対し、同小法廷は「有罪と認定するには、状況証拠によって認められる事実の中に、被告が犯人でなければ合理的に説明できないものがあることを要する」と指摘。その上で、吸い殻は、警察が事件翌日に採取した段階で茶色く変色していたことから、「かなり以前に捨てられた可能性があり、被告が事件当日にマンションに行ったとは認定できない」とした。

 藤田裁判長を含む4人の多数意見。堀籠裁判官は「被告が犯行に関与したことは合理的疑いを差し挟まない程度に立証されている」との反対意見を述べた。

 大阪母子殺害事件 2002年4月、大阪市平野区のマンションで主婦の森まゆみさん(当時28歳)と長男瞳真(とうま)ちゃん(同1歳)が殺害されて部屋が放火された。大阪府警は同年11月、元義父の森被告を逮捕し、大阪地検は状況証拠を軸に起訴した。1審・大阪地裁は05年8月、「森被告を犯人だと推認できる」として無期懲役を、2審・大阪高裁は06年12月、「犯罪性向が強い」として死刑を選択した。

(2010年4月28日 読売新聞)

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