「ロボスーツ」リハビリ支え、医療・介護に導入進む

半身マヒ患者「階段を上れた」
人の「意思」で動くロボットの利用が、医療や介護の現場で広がっている。ロボットスーツ「HAL(ハル)」の訓練施設が今月、茨城県つくば市にオープン。最先端技術がリハビリをサポートするのはサイボーグ世界をほうふつさせる。励みにつながる意外な効果もみられる。(水戸支局 渡辺加奈)

 埼玉県飯能市の飯能靖和病院で、両脚にHALを装着した男性(75)が、かすかなモーター音とともに段差10センチの階段で上り下りを繰り返した。「階段を上れるようになるとは思わなかった」とうれしそうだ。見守る医療スタッフからも「すごい」と歓声が上がった。

 男性は4月に脳卒中で左半身がマヒした。5月下旬からHALを取り入れたリハビリを始めた。座ったまま足を曲げ伸ばししたり、立つ座るを繰り返したり、段階に応じて新しい動きに挑戦してきた。

 練習を積んできた男性は、「最初はHALに引っ張られるような感じだったが、今はつえをつきながら歩けるようになった。日本が作った最先端のロボットを着けられることもうれしい」と手応えを実感する。

 リハビリを担当する大沢愛子医師(35)は「HALで動けるようになると、つらいリハビリにも希望が持てる。ロボットを使える楽しさも大きい」と効果を語る。

 HALは全国の病院や介護施設など37施設で導入されている。開発した筑波大の山海嘉之教授(52)は、「人生80年、身体機能低下の傾きを少しでもなだらかにし、元気で暮らせるようになればいい。将来的には家庭で使えるようにしたい」と話す。

 山海教授が社長を務めるベンチャー企業「サイバーダイン」は4日、障害者らがトレーニングできる施設をつくば市に開設。理学療法士らがサポートし、症例を集めて今後に生かす狙いがある。

 茨城県は生活支援ロボットの開発を促そうと、約1億6000万円で30体を導入。県立医療大では6月から、脊髄(せきずい)損傷で車いすを使っている人や、脳卒中でマヒが残る人など10人に装着してもらっている。着脱の難しさや費用などの面で課題もある。同大の居村茂幸教授(61)は「マヒで必要以上に緊張した筋肉に対応困難な場合がある」と指摘し、利用者の視点を生かしながら細かい症状に対応できるように研究していく。


 日本は介護ロボットの分野で、「世界市場を獲得する」を目指している。大手自動車や家電メーカーなども相次いで参入。経済産業省は「高齢化社会で介護ロボットは大きな意味を持つ。ニーズも高い」(産業機械課)と、普及のために安全基準づくりを進めている。

 HAL サイバーダインが2009年に発売した世界初の福祉用ロボットスーツ。体を動かそうとするときに出る微弱な「生体電位信号」をセンサーでとらえ、モーターを動かして手足の動きをサポートする仕組み。動きたくない意思が伝われば、その動きも止まる。

(2010年8月20日 読売新聞)

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