8月2日16時1分配信 毎日新聞
◇課題は巨額の事業費120億円 機運盛り上がりに期待
失われた砂浜を取り戻そう--。指宿市で、そんな構想が持ち上がっている。再生した砂浜を観光資源にし、防波堤を越えて打ち寄せる越波被害も防ぐ「一石二鳥」を狙うのだ。しかし、総事業費は約120億円にも。市は、国と県による国直轄事業を目指し、機運の盛り上げに懸命だ。【村尾哲】
「部屋のガラスが全部割れてしまった」「家が水浸しになる」
4月、「指宿港海岸保全推進協議会」の初会合。商工会議所などが開いた。海岸沿いの住民が越波や、軽石の被害を訴えた。
砂浜再生が求められているのは、指宿港(同市湊4)周辺約1・6キロの海岸線だ。大規模被害をもたらした51年の「ルース台風」を受け、コンクリートの防波堤や消波ブロックで護岸されたが、老朽化。約30年前から砂浜の浸食も進み、越波が海岸線の民家を襲う。
住民らは「昔は浜競馬が開かれるほど豊かな砂浜だった。一刻も早く整備してほしい」と訴える。
夢ではない。全国的にも砂浜再生が進んでいる。
先進事例の香川県・津田港海岸は97年、整備。砂浜、階段状堤防、防砂林などを組み合わせた「面的防護」で越波を防ぎ、自然石を多用するなど景観にも配慮した。
砂浜再生に追い風となったのは99年の海岸法改正。「防護」だけだった海岸事業に正式に「環境」と「利用」の観点が加わった。
指宿市の海岸線には、砂蒸し温泉や知林ケ島など観光名所が点在する。篤姫ゆかりの今和泉小学校周辺は07年、砂浜が再生された。指宿港周辺にも再生されれば、新たな観光資源になると地元の期待は大きい。
課題は約120億円とされる事業費の確保だ。
市によると、国直轄事業の場合、国が80億、県が40億の負担だが、県は財政難に苦しむ。市の担当者は「市民全体の持続的な盛り上がりが必要」と指摘する。
市は5月、「砂浜の復活を目指して!」と題したシンポジウムを開催。副国交相や国、県の担当者らを招いた。秋には県による護岸状況の調査も行われる予定だ。
田原迫要市長は「知林ケ島を中心にビーチが広がれば世界に誇れる。なんとか事業化させたい」と意気込んでいる。