ポニョの「鞆の浦」工事差し止め…景観保護優先

万葉集に詠まれた景勝地で、映画「崖(がけ)の上のポニョ」の舞台になったとされる広島県福山市の鞆(とも)の浦で、県と市が進める埋め立て・架橋事業をめぐり、反対する住民ら159人が県知事を相手取り、埋め立て免許の交付の差し止めを求めた訴訟の判決が1日、広島地裁であった。

 能勢顕男裁判長は「鞆の浦は国民の財産で、免許が交付されれば、住民が日常的に恩恵を受けている景観利益について重大な損害が生じる恐れがある」と原告の主張を全面的に認め、知事に免許を交付しないよう命じた。

 改正行政事件訴訟法に基づき、景観利益を理由にして公共事業が事前に差し止められるのは初めてで、開発と景観保護のあり方に影響を与えそうだ。

 判決で、能勢裁判長は、「鞆の浦の景観は歴史的・文化的価値を有し、国民の財産というべき公益で、事業が完成した後に美的景観を復元することは不可能」と言及。その上で、埋め立て・架橋事業が景観に及ぼす影響を「決して軽視できない」と述べた。

 県が策定した事業計画については、「周辺の道路事情は悪く、改善の必要性は認められるが、事前調査や検討が不十分で、景観の保全を犠牲にしてまで事業をしなければならないものか、大きな疑問が残る」と批判した。

 また、埋め立て免許の交付は、瀬戸内海の景観保全を定めた瀬戸内法に照らしても、「裁量権を逸脱した違法な行為にあたる」と指摘。「架橋が完成すれば(鞆の浦の)景観が大きく様変わりし、美しさが損なわれ、文化的・歴史的価値が大きく低減する」とした。

 県側は裁判の中で、高齢化と過疎化が進む町の再生に事業は不可欠で、交通渋滞の解消や高潮被害対策などのメリットを主張。景観利益については、「具体的にどの原告が、どの範囲の場所で景観利益を有するか、全く証明されておらず、利益があると認定できない」と反論していた。

 判決では、原告159人のうち、地元の鞆地区から転居するなどした19人については訴えを却下した。

 埋め立て・架橋事業は1983年12月、県が策定。鞆港の沿岸約2ヘクタールを埋め立て、駐車場やフェリー桟橋などを整備し、港を横切る長さ約179メートルの橋を架ける。総事業費は約55億円。知事が2008年6月、国に埋め立て免許を認可申請。当時の金子国土交通相は「国民の同意を取り付けてほしい」と認可に慎重な姿勢を示していた。

 ◆鞆の浦 瀬戸内海の中央部にあって、古くから潮待ちの港として栄えた。歌人・大伴旅人が訪れて詠んだ歌が万葉集に収められ、江戸時代に寄港した外交使節団・朝鮮通信使は「日東第一形勝」(日本で一番の景勝地)と称賛した。

 近世の港湾施設の「常夜燈」(灯台)、「雁木」(階段状の船着き場)、「焚場」(船の修理場)、「波止」、「船番所」(船舶の見張り場所)が残っているのが特徴。世界遺産候補地を調査するユネスコの諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)は、総会で2回、埋め立て・架橋事業中止を求める決議を採択している。

(2009年10月1日11時16分 読売新聞)

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