厚生労働省は、国が定める認可保育所の最低基準を見直し、都市部の一部自治体に限って面積基準を緩和する方針を決めた。急増する待機児童の問題は解消されるのか。
Q 保育所の最低基準とは
A 保育の質を確保するため1948年に設けられた。児童福祉法にもとづき、室内の面積のほか、保育士の人数配置などの基準が示されている。
この最低基準を満たし、都道府県が認可しているのが認可保育所。公立と私立があり、国や自治体の負担と、保護者が払う保育料で運営される。全国に約2万3000か所あり、0~6歳の就学前児童人口の3割にあたる約204万人が入所する。
Q なぜ今、最低基準を見直すのか
A 政府の地方分権改革推進委員会が10月、国による自治体業務の規制を大幅に見直すよう勧告。保育所の基準も対象になった。全国知事会や市長会も、地域の実情に合わせ、保育所の基準を市区町村ごとに決められるよう求めていた。
地価が高い都市部では用地確保が難しく、保育所の新設が進まない状況になっている。認可保育所への入所を希望しながら入れない待機児童は、今年4月現在で2万5384人。不況による共働きの増加などで、前年より3割も増えた。
Q 基準はどう変わるのか
A 待機児童が多い都市部に限り、保育室の面積基準が緩和され、自治体の判断で決められるようになる。待機児童が解消されるまでの一時的な措置で、東京のほか、横浜、川崎市が検討対象となっている。
全国一律に規制が撤廃されるのは、園庭の基準。厚労省は、外階段の設置や耐火建築物などに関する規制もなくす方針で、既存の建物や賃貸物件も活用しやすくなると見られる。
一方、保育士の人数配置や、調理室の設置などについては、国の現行基準が全国で維持される見通しだ。
Q 待機児童は解消されるのか
A 政府は、年内に地方分権改革推進計画を策定し、来年の通常国会で児童福祉法改正を行う方針。その後、各自治体が条例を定めることになり、早ければ2011年度から面積基準が緩和される。これに伴い、自治体が認可保育所の新設や入所枠の拡大を行った場合、待機児童は一定程度解消されそうだ。
ただ、現場の市区の担当者からは「どこまで基準を引き下げるか、独自に判断するのは困難では」と戸惑いの声も上がる。新たな財源が確保されたわけでもなく、どの程度保育所増設などが進むかは不透明だ。
Q 保育の質は確保されるのか
A 保護者団体などは、「規制緩和はさらなる詰め込みを招く」と反発する。全国社会福祉協議会も、先進諸国の状況と比較した上で「現行より2割以上広い面積基準が必要」との研究報告をまとめている。
保育所は乳幼児が毎日長い時間を過ごす場所だ。急増する需要に応えるとともに、心身の発達に配慮した保育所整備が望まれる。
(生活情報部 上田詔子)
(2009年11月11日 読売新聞)