けがから29年夢の教師に…48歳井手さん、佐賀大卒業

転倒事故で右半身の自由が利かなくなったため一度は退学した佐賀大に22年ぶりに再入学した井手千佳子さん(48)(唐津市相知町)が24日、同大文化教育学部を卒業した。4月から、家庭科の非常勤講師として夢だった学校教諭になる予定で、「命の大切さを伝えたい」と目を輝かせている。(本部洋介)

 長崎県立島原高を卒業した井手さんは1980年、教諭を目指して当時の佐賀大教育学部に入学した。養護学校教員養成課程に所属し、サークルに入って友達も作った。

 しかし、81年12月、家庭教師のアルバイトの休憩中、誤って転倒。柱で頭を打って意識不明となった。2週間ほどで意識が戻り、懸命のリハビリのかいもあって83年春に復学したが、右半身が思うように動かない障害が残ったため、その半年後に退学した。

 84年、大学時代の先輩の小学校教諭、倫光さん(50)と結婚。子供2人を育てながら、パソコンを学び、市役所や企業で期間限定の事務などの仕事をこなせるようになった。

 教諭への情熱も徐々に戻り始め、長女のちひろさん(24)が2004年に佐賀大文化教育学部に入学したことや、倫光さんが応援してくれたこともあり05年、興味があった家庭科の免許が取れる文化教育学部人間環境課程に再入学した。

 大学では障害のせいで歩くとすぐ息が切れたが、自分の子供と同世代の同級生らが手を引いてくれたり、階段を上る際に肩を貸してくれたりした。授業では握力があまりない右手でペンを握り、左手で固定しながらノートを取り、5年かけて卒業に必要な単位を取得。けがから29年を経て、念願の教員免許を手にした。

 この日は、同大大学院教育学研究科に進んでいたちひろさんも学位記授与式を迎えた。佐賀市内で大学、大学院一緒に行われた式典に母子そろって臨んだ井手さんは、終始笑顔。けがをしたため袖を通せなかった成人式用の振り袖姿で出席し、「同級生や家族のおかげで卒業できた。子どもたちに一人ひとりの存在の大切さを伝えたい」と声を弾ませていた。

(2010年3月25日 読売新聞)

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