孤独死 『結』で防げ 所沢の県営団地 住人の作家模索

首都圏の公営住宅で独居高齢者の孤独死が深刻化する中、埼玉県所沢市並木の県営団地「所沢パークタウン武蔵野住宅」で孤独死予防に取り組む人がいる。同団地に住み、孤独死をテーマにした著書のあるノンフィクション作家大山真人さん(65)。「誰にも見守られずに死にたくない」。高齢者の居場所づくりなど、取材経験を基に、住民同士の共助の輪を築こうと試行錯誤を続ける。(さいたま支局・山内悠記子)

 二〇〇五年、団地の自治会役員だった大山さんが、玄関の郵便受けから室内をのぞくと、強い異臭がした。

 この部屋の六十代女性は夫の死後、四年間独り暮らし。直前に水道や電気代を滞納していたが、誰も異変に気付かず、死後三週間後に発見された。大山さんが訪ねたのは、さらにその一週間後。「妻が先に逝けば自分も同じ運命になる…」

 一九八二年に入居が始まった武蔵野住宅。現在、計六棟に約七百世帯が生活するが、七十歳以上の人は約百八十人に上る。九六年から団地に入居する大山さんも子育てを終え、今は妻良子さん(59)と二人暮らし。当時、近所付き合いもほとんどなく、女性の死に衝撃を受けた。

 「孤独死があってはいけない」。二〇〇七年七月から高齢化が進む都営戸山団地(東京都新宿区)などを取材に歩いた。従来の四階建てから高層に建て替えられた戸山団地は、玄関が階段の踊り場の左右に向き合う形から、廊下に沿って並ぶ構造に変わった。住民同士が顔を合わせる機会が減り、高齢化した住民の間で孤独死が増えていた。

 「人の顔が見えず、生きている感じがしない。無策では十年後には団地は死ぬ」。翌年四月、高齢化が進む団地の孤独死をテーマにした著書「団地が死んでいく」(平凡社新書)を出版し、住民同士が助け合う現代版の“結(ゆい)”づくりの大切さを訴えた。

 武蔵野住宅でも「寂しい」「存在感がこの世にない」と高齢者の悩みを聞いた。〇八年八月、高齢者が気軽に集えるサロン「幸福亭」を始めた。団地の集会所で週に一度、映画鑑賞会などを開き、住所や電話番号を共有し緊急時の連絡網も作った。

 独り暮らしの元会社員内田克巳さん(83)は「見守っている人がいるだけで癒やされ、明日への活力につながる」と話す。

 しかし、サロンの利用は一日平均八人、連絡網に参加したのも七人にとどまる。スタッフは二人から六人に増えたが、「誰の世話にもなりたくない」と拒否する人も多い。

 大山さんは「現実は非常に厳しく、いつまで続くか不安もあるが、地道に活動したい」と模索している。

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