岡山県赤磐市の山上に不思議な石造物がある。江戸時代の古文書にも登場する正真正銘の遺跡だが、その姿はまるで中米マヤ文明の階段状ピラミッド。いつ、誰が、何の目的で築いたのか。学界でも諸説紛々のミステリースポットを訪ねた。(宮武努)
赤磐市南東部にそびえる熊山(508・6メートル)は、30基を超す謎の石積みが点在する「熊山遺跡」の所在地として、古代史マニアの間ではよく知られている。中でも有名なのが、山頂に築かれた国指定史跡のピラミッド形石造物だ。
つづら折りの道路を慎重にドライブして山頂近くの駐車場に車をとめると、あとは約500メートルの登山道。樹齢千年近い杉がそびえる天然林をしばらく進むと、突然視界が開け、大小4個の正方形の平たい箱を積み重ねたような遺跡が現れた。
高さ約4メートル、最下段は一辺約12メートル。よく見ると、最下段は天然の岩盤を石積みで補ったような構造で、上3段は完全な人工の石積み。窓のような横穴もある。これが一体何なのか、素人目には見当もつかない。
郷土資料によると、江戸時代の多くの書物に、奈良時代の渡来僧鑑真が設けた「戒壇」(僧に戒律を授ける施設)だと記されているという。
ところが、昭和初期に盗掘された結果、中心部に深さ約2メートルの縦長の空洞が存在し、ロケット形の巨大な陶製容器(高さ約1・6メートル)が秘蔵されていたことが判明。中に奈良時代の作とみられる小壺があったことから、戦後、壺を仏舎利(釈迦の遺骨)容器に見立てて「遺跡の正体は仏塔だ」とする学説が唱えられるようになった。
だが、高僧墳墓説や修験道遺構説をとる学者もおり、論争は未決着。「邪馬台国女王の墓だ」と主張する郷土史家まで現れる過熱ぶりだが、肝心の小壺は戦時中の盗難で行方不明になったままだという。
「今でも遠くから遺跡を見に来る古代史マニアが時々いますよ」と地元の男性。心臓部を失った哀れな和製ピラミッドは、マニアのうんちくを聞きながら何を思っているだろうか。
◎楽しむ
熊山山頂は謎の石造物以外にも見どころがいっぱい。展望台や休憩所からは、児島湾に注ぐ吉井川や岡山市街はもちろん、小豆島や四国の山々まで一望できる。展望台に無料の望遠鏡があるのもうれしい。山頂一帯には杉、モミ、スダジイ、ヤブニッケイが茂り、熊山奥吉原郷土自然保護地域に指定されていて、ふもとから歩いて登る登山客も多い。熊山神社、猿田彦神社など史跡も豊富だ。
◎出会う
熊山遺跡の正体を徹底的に調べたい人は岡山市の県立図書館(086・224・1286)に足を伸ばそう。「吉備考古86号」「熊山遺跡」「熊山町史」「吉永町史」などの郷土資料に発掘記録や学説が収録されている。遺跡から出た小壺は失われてしまったが、巨大な陶製容器は散逸を免れ、現在は天理大学付属天理参考館(奈良県天理市、0743・63・8414)が所蔵。入館料400円で見学できる。火曜休館。
◎名物
熊山のふもとに広がる赤磐市熊山地区の特産物は黒豆。実盛忠義さん(48)が経営する同市沢原の熊山農産物直売センターでも、袋詰めされた黒豆のほか、黒豆を使った甘納豆(1袋500円)、パン菓子(同320円)、いり豆(同320円)などが人気を集めている。いずれも地元産の黒豆を直売センターで加工した商品だ。営業時間は午前9時~午後5時半。年始以外は無休。電話086・995・9500
◎味わう
熊山地区に近い岡山市東区瀬戸町万富のキリンビアパーク岡山では、無料でビール工場の見学ができる。巨大な仕込み釜や缶詰め機に驚いた後は、試飲も楽しめる。電話予約(086・953・2525)が必要。敷地内のレストラン「キリン一番館」(086・953・1121)は、ビーフシチューのセット(1300円)など、ビールによく合う料理と自家製パンが自慢。ともに月曜、第3火曜、年末年始が休み。
■アクセス 山陽自動車道山陽インターから約1時間で熊山山頂近くの駐車場。ここから登山道を約10分。あるいは、JR山陽線熊山駅から登山道を約2時間半。