11月21日8時1分配信 産経新聞
■異常感じたらすぐ病院へ
勤労感謝の日の今月23日は、心臓病の予防、治療への関心をもってもらおうと制定された「ハートケアの日」にあたる。動脈硬化が原因で発症する狭心症や心筋梗塞(こうそく)は突然死の原因の6割以上を占めるが、実は予防が可能で、早期に発見して治療すれば大事に至らずに済む。循環器内科医らでつくる「ハートケア情報委員会」は「受診の目安となる症状や、予防のための生活習慣を多くの人に知ってほしい」と呼びかけている。(平沢裕子)
≪7割以上が受診なし≫
心疾患は、がんに次いで日本人に多い死因。ところが、予防や治療についての関心は、がんや脳卒中に比べて高くないのが実情だ。
心疾患の中でも狭心症は、明け方に胸が痛くて目が覚める、通勤などで階段を上がるときに胸に圧迫感を感じたり、動悸(どうき)、息切れがするなどの症状がみられることが多い。しかし、5~10分安静にしていると痛みが治まるため、「大したことはないだろう」と考え、病院に行かない人は少なくない。ジョンソン・エンド・ジョンソンが昨年行った調査でも、心臓に圧迫感や動悸を感じた経験のある人の7割以上が病院に行っていなかった。
東海大学医学部付属病院の伊苅裕二教授(循環器内科)は「狭心症の症状があっても、病気と思わない人が多い。症状を自覚した時点で受診すれば、心疾患が原因の死亡は今の半分に減らせるはず」と指摘する。
≪「筋肉痛」と勘違い≫
心筋梗塞は焼け付くような激しい痛みが30分以上続くのが特徴とされるが、高齢者や糖尿病の患者では痛みを伴わない場合もある。痛みの場所は、胸の真ん中やみぞおちの辺りなど心臓に近いところのほか、腕や腹、背中、首、あごに激しい痛みを感じる人もいる。
9年前に心筋梗塞に襲われた東京都中野区の建設業、上野清一さん(52)は、首の後ろに、経験したことのない激痛を感じ、近所のかかりつけ医を受診した。痛みを感じた前日も胸に少し圧迫感があったが、「筋肉痛のようで、心臓の病気とは思いもしなかった」ため、受診しなかった。検査で心筋梗塞と診断された上野さんは、そのまま救急車で総合病院に転送され、ステントと呼ばれる網目状の金属の筒で血管を内側から広げる治療を受け、一命を取り留めた。
身長170センチの上野さんの当時の体重は103キロで胴回りは115センチ。喫煙習慣があり、糖尿病、高血圧もあるなど、いつ心筋梗塞となってもおかしくない健康状態だった。ただ、糖尿病や高血圧の自覚はなく、喫煙や飲酒をやめたり、食事内容に注意したりすることはなかったという。
≪健康状態の把握を≫
上野さんは退院後、油ものの多かったそれまでの食事を見直すとともに、ウオーキングや水泳などの運動を行い、半年で30キロの減量に成功。今も1日の摂取カロリーは1400~1600キロカロリーに抑え、体重を70キロ台前半に保っている。肥満の解消により、血糖値や心電図は正常を示している。
主治医でもある伊苅教授は「上野さんが心筋梗塞から生還できたのは、異常を感じてすぐに病院を訪ねたことが大きい。症状がない場合は難しいが、いつもと違う痛みが30分以上続くようなら、すぐに救急車を呼んでほしい」と呼びかける。
また、心臓血管研究所の相沢忠範所長は「心疾患の原因となる動脈硬化は、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などの危険因子があると悪化が早まる。健康診断の結果などを参考に自身の健康状態を把握し、バランスのとれた食事、適度な運動、禁煙、ほどほどの飲酒、ストレスをためないといった生活習慣を心がけてほしい」と話している。