12月5日21時19分配信 産経新聞
インド最大の商業都市ムンバイでの同時テロは、テロリストを制圧してから6日で1週間になるが、国内ではなお、警戒が続いている。これまでのインド側の捜査では、犯行はイスラム過激派組織「ラシュカレトイバ」(「敬けんな戦士」という意味)が1年以上前から準備し、インド人の協力者もいたという。一方、テロリストは英米人だけでなくインドの女性や子供を狙ったテロも計画していたが、関係者の機敏な対応で助かったこともわかった。(シンガポール 宮野弘之)
今回のテロで、唯一生きたまま逮捕されたアジマル・アミル・カサフ容疑者(21)は取り調べに、自らも含め実行犯10人は全員パキスタン国籍で、ラシュカレトイバのメンバーだったと供述している。カサフ容疑者自身は約2年前、父親に連れられてラシュカレトイバのメンバーに引き合わされ、パキスタンのカシミール地方のキャンプで訓練を受けたという。
今回のムンバイでのテロに加わる見返りに、15万ルピー(28万円)が家族に払われたが、同容疑者は自分が逮捕されたことで家族が金を返さなければならなくなるのでは、と心配しているという。
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11月26日夜、仲間9人とゴムボートでムンバイの漁港に上陸したカサフ容疑者は、2人でチャトラパティ・シバジ駅に向かい、手投げ弾と自動小銃を乱射し、乗客と警官ら80人以上を殺害。さらに駅から500メートルほどのカマ病院に向かった。
当時、敷地内にいて自らも負傷した警備員(45)は、裏の壁を乗り越えて侵入した2人にいきなり銃撃されたと話した。
カマ病院のマヘシュガウリ院長によると、同病院は小児科と産婦人科が中心の公立病院で、病棟には当時、新生児を含め母親と子供ら約100人がいた。
銃声を聞いた各階の看護師が、病棟中央の階段やエレベーターホールから病室につながる扉を閉鎖。さらに照明を消し、患者を部屋の奥に誘導、避難させた。
このため、容疑者2人は1階から6階の病室には入らず、会議室しかない7階まで上ったところで警官隊と銃撃戦となった。だが、2人の武器は強力で、結局、逃げられたという。
マヘシュガウリ院長は、「看護師らの機転で患者たちは皆助かった。ここは宗教も民族も関係なく、貧しい人たちのための病院なのに、なぜ狙われたのか。混乱に陥れることが目的だとしたら許せない」と、憤りを隠さなかった。
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インド国内の協力者の存在は、発生当初から指摘されていたが、インド警察によると、今年2月に別のテロ事件で逮捕した元インド学生イスラム運動(SIMI)のメンバー、ファフィーム・アンサリ容疑者が関与していた。アンサリ容疑者は、昨年11月28日から12月10日までムンバイに滞在。タージマハルホテルや中央駅、ムンバイ証券取引所などが描かれた地図を作成。地図のコピーは今回の容疑者全員が持っていた。
また、容疑者の携帯電話のSIMカード(契約者情報を記憶したICカード)は、いずれもバングラデシュ人の名前で、インド国内で購入されたものという。
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一方、インド政府高官は地元メディアに対し、パキスタン軍部は、ザルダリ政権が進めるインドとの関係改善を快く思わず、「ザルダリ大統領が譲歩すれば軍によるクーデターもありうる」との見解を示した。
同高官によると、パキスタン軍はアフガニスタン国境地帯でのイスラム過激派勢力の掃討作戦には消極的で、インドとの緊張が高まれば、同作戦から手を引けると判断。さらに、パキスタン政府がいったんは約束した軍統合情報部(ISI)長官のインド派遣をやめたのも、軍の圧力によるものと指摘した。