’09衆院選:ルポ・地域の課題を追う 大型店進出に不安 /東京

8月8日11時0分配信 毎日新聞

 ◇高齢者に不可欠な商店街
 敷地に入ると、方向感覚を失った。計3216戸。等間隔で並んでいるアパート棟がどれも同じ建物に見える。7月、東久留米市の滝山団地を訪ねた。
 返り梅雨を思わせる曇り空の下、団地住民の浜野としこさん(80)は、自宅から約200メートル離れた商店街「滝山中央名店会」に向かって歩いていた。
 5年ほど前、血管を広げる心臓手術をした。歩くと胸に息苦しさを感じる。重いものは持つなと医者に注意されているが、1日1回の買い物は欠かせない。この日は生鮮食品店2店をはしご。両手に買い物袋を下げ帰途に就いた。自宅は3階。手すりにすがって33段の階段を何とか上りきった。「大型店なんてできても行けませんよ。商店街が無くなったら、飢え死にする」
 団地自治会のアンケートでは、08年現在、世帯主の63%が65歳以上の高齢者。商店街の存続は、買い物もままならないお年寄りの死活問題でもある。
 東久留米では高度経済成長期、団地の建設が相次ぎ、セットで商店街が形成された。店々に行列ができた時代もあったが、住民の高齢化とともに、かつてのにぎわいは消えた。
 追い打ちを掛けるように持ち上がったのが、イオンショッピングセンターの誘致構想だった。野崎重弥市長は既存商店への悪影響を認めながらも、出店計画を後押しする。「税収を支えてきた住民が一斉にリタイアしている。税収構造の改善をやる時がきた」。06年度、市の市民税収は約156億円。ピーク時の93年度より1割減った。労働人口の減少が要因の一つという。
 「出店に反対いたします」。06年5月、市内で開かれた商店街活性化対策の会議。商店街への補助金制度を説明するこの場で、市側はイオン出店をさらりと切り出した。滝山中央名店会の小島洋八郎理事長は、すかさず声を上げた。
 年中無休、安売り、24時間営業--。大型店やチェーン店の攻勢に、小島理事長は先が見えない不安を感じている。「このままでは、みんなやられてしまう」。イオン出店は脅威だ。しかし、反対するほか打開策が見いだせない。
 ある地元商工会幹部は、衆院立候補予定者の集会に参加し、こう嘆いた。「補助金が欲しいんじゃない。小さな商店が、これからの時代を生き抜くすべを政治は示してほしいんです」【山本将克】
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 ■ことば
 ◇東久留米市のイオンショッピングセンター計画
 滝山団地から東に約2キロの銀行グラウンド跡地(東久留米市南沢5)に、地上4階建ての大型商業施設を呼び込む計画。開店予定は11年春で、市は3億円の税収増を見込んでいる。中心市街地の空洞化を食い止めるため、都市計画法では大型店の出店を「商業地域」などの3地域に限定している。今回の予定地は出店の規制対象となる地域だが、市は同法に基づく「地区計画」を策定し、商業施設の建設を可能にする措置を取る方針だ。
〔都内版〕

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