地震や火事の避難時に押されたら、突き飛ばされたら―。そんな視覚障害者の不安に応える「防災ベスト」が完成し、26日までに市販の準備がほぼ整った。明るい黄色地、背中に盲人を表す国際マーク。自らの存在を周囲に知らせる。50代で弱視になり、「見えない恐怖」を痛感した元静岡放送アナウンサーで県地震防災アドバイザーの郷隆志さん(61)=静岡市駿河区=が考案した。
郷さんは10年前、担当するラジオ番組のオンエア直前、突然の視力低下に襲われた。その後繰り返し発症した緑内障、白内障の影響で3年前に左目の視力をほぼ失い、右目もわずかに視力を残す程度になった。視野が狭く、明暗の調節もうまくいかない。「人込みや階段が怖い」。白杖(はくじょう)を手にした。
現役時代、静岡放送の地震防災キャスターを務め、阪神淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)など、数々の大規模地震の現場を歩いた。現地では全盲の被災者たちから「目からの情報がない恐怖」を強く訴えられた。自らが弱視になり、被災者の思いがあらためて胸に迫った。
「とにかく周りの人に存在を知ってもらうことが大切。分かりやすいベストを着ていれば、介助も受けやすくなる」。2年前から構想を温めてきた。旧知の岩田孝仁県危機報道監や県視覚障害支援センターなどと相談を重ね、今年7月までに完成にこぎ着けた。
岩田報道監は「災害時要援護者への対応は重要な課題。地域などでベストを着用した訓練も進められたら」と普及を期待する。同センターのコーディネーターで、全盲の土居由知さんは「自らを守る意思を示す必要がある。積極的にPRしていきたい」という。
8月末、障害者自立支援法に基づく県の障害者日常生活用具リスト(ガイドライン)に「防災用具」が新設された。同ガイドラインに基づき、市町が認めた物品は原則1割負担で購入できる。防災ベストはLL、L、Mの3サイズあり、定価はいずれも4500円(送料、税込み)。日本盲人会連合などが取り扱う。
取り扱い先や購入方法などの問い合わせは県視覚障害支援センター〈電054(253)8180〉へ。