◇リフォーム、補修に100万円超 初の一括建て替え、起爆剤に
11日投開票の多摩市長選。立候補した新人3人とも人口の約7割を占める多摩ニュータウン(NT)の再生を公約の一つに掲げ、激しい舌戦を展開している。1971年に入居が始まった同NTは約40年が経過し、建物の老朽化や住民の高齢化が問題となっている。3月には「諏訪2丁目住宅」(640戸)管理組合が一括建て替えを同NTで初めて決定した。再生のモデルケースとして注目を集める中、同NTの現状を探った。【松本惇】
◇かつての羨望の的も
建て替えが決まった諏訪2丁目住宅。5階建て全23棟すべての部屋の床面積は約50平方メートル、間取りは3DK。かつて羨望(せんぼう)の的だったNT住まいだが、現在は外から建物を眺めると、ところどころの部屋にカーテンがなく、生活感が感じられない。
室内に入ると、床が腐り、風呂場のタイルの一部がはがれ落ちてコンクリートがむき出しになっている。力を入れて引かないと開かない玄関のドアもある。多くの高齢世帯は、不安を抱えながら毎日を過ごしている。
79年から5階に住んでいる無職女性(66)は夫(68)と2人の年金生活。リフォームや水道管の補修などでこれまでに約100万円かかった。費用を抑えるために壁紙は自らの手で張り替えた。
女性は昨年3月、持病の緑内障の影響で眼圧が上がり、動けない状態になった。救急隊を呼んだがエレベーターがないため隊員におぶわれて搬送された。
「永山駅からは徒歩約10分ぐらいだが、坂道が多く、階段もきつい。私はまだ頑張れるけど、年が若くなるわけじゃないから……」と不安を口にする。建て替えは賛成だが「仮住まいの家賃がどうなるか」と心配事の種は尽きない。
◇「他に選択肢はない」
80年から1階に住む西村昌純さん(72)も、床を張り替えるなどして「100万円じゃ下らない」額を部屋の補修にあててきた。現在は、書店でアルバイトをし、学童臨時職員の妻ひな子さん(61)の収入と年金で何とか暮らしてる。
建て替えに賛成はしたものの「他に選択肢はない」と西村さん。ひな子さんは「この歳で引っ越して戻ってくるというのは、精神的にもつらく、病気になるかもしれない。元気に帰って来られればいいけど」と話す。
市都市計画課によると、多摩NTの計画人口は34万人だが、現在は約21万人にとどまっている。隣接の八王子、町田、稲城の3市を含めたNT全体の65歳以上の老齢人口は昨年10月現在で15・3%。
多摩市は19・97%と比率が高く、特に最も入居が早かった諏訪地区は24・89%、永山地区も23・96%を占める。市の推計では今後、急速に老齢人口が増え、19年には30・2%になると見込んでいる。
同課の永尾俊文課長は「多摩ニュータウンは道路が整備されて緑も多く、環境は良い。実際、新築マンションへの入居は多く、人口は減っていない。肝心の住宅さえ良くなれば、若い世代の入居希望者も増えるはず。その意味でも、諏訪2丁目住宅の建て替えは起爆剤になる」と期待を寄せる。
◇20年かけ計画を決議
再生の切り札とされる諏訪2丁目団地の建て替え計画だが、3月28日の管理組合の臨時総会で決議するまでに約20年の歳月を要した。
新住宅は11階と14階建ての高層マンション計7棟とし、各部屋は床面積約40~90平方の約10種類にして、多様な世帯が入居できるようバリエーションを増やす。増加分の住戸を売却し事業費に充当することで住民の負担軽減を図るのが計画のポイント。
保育所や診療所、カフェも併設し、周辺の団地を含めた利便性を高めた新しいまちづくりを目指す。
加藤輝雄理事長(62)は「地域に開放されたまちづくりをやっていきたい」と語る。
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完成予定は13年11月。今回の選挙で選ばれる新市長の手腕に寄せられる期待は大きい。
〔都内版〕