鎌倉の「金沢街道・寺巡り」を推す声が寄せられた。いくつもの寺があるなかで杉本寺、報国寺、覚園寺はいかが、とある。この辺りに行ったことはない。良い機会と思い、出かけた。
JR鎌倉駅東口を出て直進、信号を渡って左へ、鎌倉警察署の角を右に入り、突き当たりを左へ進むと小町大路。鎌倉時代には武家屋敷と商家が軒を並べていたという。今は静かな住宅街の道だ。通り沿いに日蓮聖人の辻説法跡があり、妙隆寺では「鎌倉江の島七福神」ののぼりが風に揺れていた。
交通量の多い道に出る。県道204号線の金沢街道だ。大きく右にカーブした街道を行くと、杉本寺の急階段の下に着く。足もとに気をつけながら階段を上る。緑のコケに覆われ、人の行き来でくぼんでしまったような風雪を感じさせる石段が現れた。脇の階段から本堂前に出る。護摩たきの最中で、読経が響く。「鎌倉最古の寺にふさわしく厳かで落ち着いた気持ちになれる」と推薦者が書く通りだ。小道を行けば見晴らし台のように目の前が開け、入り組む谷戸の形がよく見える。
再び金沢街道を進み、「報国寺入口」とある信号を渡ると、「竹の寺」ともいわれる報国寺。人影さえ隠してしまうほど密生した竹林に圧倒された。びょうぶ絵に描かれるような虎が潜んでいそうだ。小石を敷き詰めた庭、目の前に迫るがけ、竹筒から流れ落ちる水の音。背筋をぴんと正されるようないかめしさを感じた。
寺から少し先にある旧華頂宮邸へ寄った。昭和初期に建築されたしょうしゃな洋館の姿に、報国寺で感じた緊張感が解け、肩の力が抜ける。
金沢街道を戻り、第二小学校の横を右に曲がって荏柄天神社(えがらてんじんしゃ)へ向かう道にはいる。川から二つ目の十字路を右に行くと突き当たりが鎌倉宮。鳥居の前を左へ進み、創建当時の姿を色濃く残すといわれる覚園寺を目指す。
同寺では説明していただけるとあり、案内時間を待って境内へ。日光・月光菩薩(ぼさつ)を従えた薬師如来や十二神将が安置された薬師堂、人々が願をかけた多くの地蔵を納めた地蔵堂、罪人の身代わりに灼熱(しゃくねつ)地獄の炎で焼かれた黒地蔵……。12月初めには紅葉で庭は真っ赤に染まるという。ユーモアを交えた話は興味深く、仏像に手を合わせた人たちの思いが長い時を越えて伝わってくるような気がした。
帰りは大塔宮バス停から鎌倉駅へ。時代を行き来する気分を味わった街道界隈(かいわい)の散策を終え、バスはにぎやかな21世紀の駅に着いた。
(文・景山明子)
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県内在住の女性ライターが、皆さんから寄せられたお気に入りの場所を紹介します。
=次回は17日付
◆◆ 寄り道メモ ◆◆
◇金沢街道◇ 鎌倉市雪ノ下と横浜市金沢区朝比奈町を結ぶ県道204号の金沢鎌倉線。鎌倉時代には金沢の六浦から鎌倉へ塩などを運んだとされ、「朝夷奈切通」は国の史跡。
◇旧華頂宮邸◇ 1929(昭和4)年建築の木造銅板ぶき3階建て。鎌倉市の景観重要建築物で、国の登録有形文化財。「日本の歴史公園100選」にも選ばれている。庭園の公開は午前10時~午後3時(10月~3月、4月~9月は午後4時まで)。月曜日と火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始は休み。建物内部は春秋に短期間公開。電話市都市景観課(0467・61・3477)。
◇鎌倉・長谷寺の紅葉ライトアップ◇ 6日(日)まで午後5時~6時(最終入場)。土、日曜日は午後6時半まで(同)。この時間に限り入山無料。電話長谷寺(0467・22・6300)。