沖縄本島中部の沖縄市。中心部はコザと呼ばれる、極東最大の米空軍嘉手納基地の門前町だ。米国の占領時代から米兵相手のライブハウスが軒を並べる。なかでも人気なのがロックだ。その文化に浸ろうと、週末の夜、街へと繰り出した。
1人では不安なので、地元の音楽プロデューサーの徳山義広さん(55)に案内役をお願いした。
すると、まず向かったのは両替所。多くのライブハウスはドルで支払える。為替相場に関係なく「1ドル=100円」程度が定着しているため、円高の今ならドルの方が割安なのだ。
夜ともなると、多くの米兵が街へ出てくる。英語が飛び交い、飲食店でもドル札が通用する。米国の街と見まがうような光景だ。
ライブハウスは歩いて数分の範囲に立ち並び、まばゆいばかりのネオンの光を放っていた。
最初に入ったのは「JACK NASTY’S」。階段を下りて地下の薄暗いフロアに入る。カウンターの中から上半身裸の男性が迎えてくれた。
この人こそ、沖縄ロック界の大御所「かっちゃん」こと川満勝弘さん(65)。コップの替わりに客の靴にハブ酒を注いで飲み干すなど「伝説」のパフォーマンスで知られた有名人だ。
ビールを注文すると、グラスではなく、小瓶が出てきた。ラッパ飲みをしながら話を聞く。
――ロックの魅力ってなんですか。
「英語の歌詞なんか分からなくても、ドラムのビート(振動)に揺れる体験を共有できるところかな」
ベトナム戦争のころは、泥沼化する戦場に赴く直前の若い米兵たちが、恐怖を紛らわせるために激しいビートに酔いしれた。
演奏が気に入らないと、飲みかけのビール瓶をステージに投げつける米兵もいたという。そんな「修羅場」も昔の話。いまではガイドブックを携えた観光客でも楽しめるという。
コザのライブハウスは入店料(チャージ)不要の店が多く、次から次へと店をはしごしやすい。「せっかくコザに来たなら、いろんなバンドの音楽を聴いて欲しいね」と徳山さん。
実力派で知られる3人組オヤジバンド「JET」のライブが見られる「Live Music Bar JET」。ヘビーロック中心の「CLUB FUJIYAMA」……。どこの店に入っても、客の大半は米兵ら外国人だった。
ここは本当に日本なの? そんな感覚を抱きながら、いろんな店でライブを聴くと、あっという間に日付が変わっていた。
青い海と青い空。それだけが沖縄の魅力じゃない。そう感じた夜だった。