タカラヅカの常識を打ち破った? 衝撃的な公演ポスターが上演前から話題だ。月組の男役スター龍真咲の3度目のバウ主演作「HAMLET!!」(4日~14日)はシェークスピアの戯曲を約60曲もの楽曲で展開するロック・オペラ。真っ青な瞳、血がしたたるような赤い唇。真正面を見据えたポスター制作にも龍自ら積極的に意見を述べるほどこだわりを見せた。はかなくも美し過ぎる、ニュータイプのハムレットが誕生しそうだ。
真っ正面を見据えた鋭い眼光、その目は青く、唇は血がしたたるように赤い。タカラヅカの公演ポスターと言えばスターが舞台化粧を施し、美しい風景をバックに上半身、もしくは全身が写り込んだモノと相場は決まっている。しかし、現在、阪急沿線各駅や歌劇団周辺に張り出されている「HAMLET!!」のポスターは一際目をひく。
「すごくうれしい反応ですね。常々ポスターってすごく重要だと思っていまして、今回『正面のアップでいく』ってなった時“どうせならインパクトのある方がいい”って思ったんです。私も話し合いに加わってすごく考えて作ったし、そう言ってもらえると本当にうれしい。しかも、ひとつひとつ、ちゃんと意味があるんですよ」。
陶器のように透き通った白い肌は「亡霊、死者」。青い目は「狂気」。唇は「血」。実はグラデーションになっており、鮮やかな赤から左に向かって赤黒く変色。麗しい青年から死に向かう姿を象徴しているのだという。自らポスター制作にかかわった情熱からか、説明してくれる龍はいつにも増して冗舌だ。
演目は言わずと知れたシェークスピアの名作「ハムレット」。これをロックでつづるスタイルで、龍だけで約40曲、全体では60曲もの楽曲で展開するという。この日、取材にやってきた龍のカバンの中にも7~8センチもの譜面の束が顔をのぞかせていた。
「膨大な歌に長ゼリフ、激しい振り付け…。ホント大変ですよ。でも、こうやって主演させてもらえることはホントありがたいし“人に支えられているんだな”って心底感じます。例えば下級生が頑張っている姿を見るだけで励みになるし。このメンバーでお芝居できることがうれしい」。今は自分にもムチ打って芝居作りに懸命だ。
これが終われば大劇場公演「スカーレット・ピンパーネル」で準主役のショーブランを明日海りおと日替わりで演じる。「男役10年」と言われる世界でその節目を迎え、順調にスターへの階段を上っている。「去年の目標は“勢い”だったんです。でも、今年はそれだけじゃダメだなって。学年が上がって場数を踏んでうまくなるのは当たり前。感情を豊かに表現して、心でお芝居ができる役者になりたい」と次へのステップもにらんでいる。
「これだけチャンスをいただけるんですから、充実は常にしています。今はそれを貪欲(どんよく)に、充実の深みを掘り下げたい。もっともっと悩みたいし」。今の龍はハムレットと同じ、その穏やかな横顔の奥に計り知れない爆発力を胸に秘めている。
◆「HAMLET!!」 復讐(ふくしゅう)を果たし壮絶な死を遂げたハムレット(龍)は毎年、命日に親友だったホレーシオ(宇月颯)に呼び起こされていた。恋人オフィーリア(蘭乃はな)デンマーク王だった父(研ルイス)母ガートルード(五峰亜季)らが続いて次々によみがえり“真相”を話し始める。彼らは成仏できず、この世にさまよっていたのだった。
これからさかのぼること数年。王の弟クローディアス(越乃リュウ)は父の死後、母で王妃ガートルードと結婚し、デンマーク王の座に就いた。父の亡霊に会ったハムレットは実は父の死が毒殺であったことを告げられる。真実を知ったハムレットは狂気を装いながら復讐を誓い、次々に悲劇が起こる。
シェークスピア4大悲劇のひとつで、タカラヅカでも今回が3度目の上演。亡霊がよみがえり過去を語り始めるという手法が今回の特徴だ。
☆龍真咲(りゅう・まさき)12月18日生まれ。大阪府東大阪市出身。城星学園を経て01年「ベルサイユのばら2001」で初舞台。06年2月「Young Bloods!!」でバウホール初主演。07年1月「パリの空よりも高く」で新人公演初主役を務め、続く同年8月「マジシャンの憂鬱」でも新公主役に。08年8月、博多座での「ME AND MY GIRL」では娘役のジャッキーと3番手男役のジェラルドを日替わりで公演。昨年3月のバウホール公演では、シェークスピアの「二人の貴公子」で明日海りおとW主演。鬼気迫る立ち回りシーンが話題になり、5月の「エリザベート」では暗殺者で狂言回しのルキーニを好演。次々に難役をこなす近年急成長の若手男役。身長171センチ。愛称「まさお」。