我孫子市の西端の手賀沼を見下ろす台地に、緑豊かな森がある。中世の山城跡「根戸城跡」だ。この史跡のふもとの農地で7日、小学生からシニア世代まで約30人がソバの脱穀をした。
「自然と共生する地域づくり」を目指す市民団体「手賀沼トラスト」が、休耕地を活用して取り組む農業体験の一つだ。無農薬有機栽培でソバを育てソバ打ちし、味わう――。活動は今年で11年目になる。
先月下旬に刈り取り、「稲架(は・さ)」にかけて天日干ししたソバを、昔ながらの足踏み脱穀機や千歯こきなどで脱穀して、「唐箕(とう・み)」と呼ばれる農機具でよりわけた。
「穂の引っ張り方が難しい」。初めて千歯こきに挑戦したという一色菜穂さん(10)は、こう言いながら奮闘した。菜穂さんの父親で、我孫子市の会社員、一色有喜さん(46)は「色んな世代の人と一緒に汗を流し、季節ごとに様々なことができる。皆さん、子どもに温かく包容力がある」と話す。
正午すぎ、「ご苦労様、きれいなすばらしい実がとれました」。遠藤織太郎代表(76)が皆をねぎらった。今年の収量は102キロ。茨城県内で製粉してもらい、28日の「そば祭り」では100人ほどが新ソバに舌鼓を打つ。
手賀沼トラストは、根戸城跡主要部分の地権者で、農業の傍ら画家としても活躍した前代表の故・日暮朝納さんらの呼びかけで生まれた。会員は約130人。地元農業者もいるが、多くは会社員や定年退職者、主婦ら。我孫子市のほか柏、鎌ケ谷、船橋の各市や都内からもやってくる。小春日和の水曜日。根戸城跡の森で、副代表の原田泰夫さん(48)らが、風雨で落ちた枝を拾ったり、下草を刈ったり。定例の作業に精を出した。
「以前はうっそうとしていた」という城跡は、杉や竹を間伐するなど手入れを重ね、明るい日差しが地面に降り注ぐようになった。木々の間からは、会員らが米やソバ、野菜を育てる田畑、その先に手賀沼が一望できる。
城跡と道路を挟み、東側の里山の斜面では、温州みかんの収穫も行われた。3年前から植え始めたミカンの苗木は、丸井グループの労働組合が運営する「マルイグループ福祉会」から贈られた。全国各地でボランティア活動に取り組む同会は、トラスト発足時から毎年春に環境ボランティア30~40人を派遣。城跡へ上る階段の整備などに協力し、資材や苗木も寄贈している。
今年5月、手賀沼トラストの10周年の記念誌「沼のほとり」が刊行された。堆肥(たい・ひ)作りから始める「農教室」や、井戸を掘って冬も水を張る田んぼでの生き物調査、沼のほとりを彩るヒマワリ畑や花ハス田づくり、炭焼き、竹工芸……。さまざまな活動をより多くの人に知ってもらおうと、会員らが手分けして執筆した。その表紙を飾るのは、昨年8月に急逝した日暮さんの描いた手賀沼の風景画だ。
担い手の柱をなくした日暮さんの農地の維持を支えようと会員有志は任意団体「手賀沼ファーム」を結成。日暮さんの芋掘り園を引き継ぎ、ベニアズマを植え付けた。
「とれたー」「でっかいなあ」。この秋も、都内の幼稚園児らが連日、収穫体験に訪れ、畑に歓声を響かせた。
遠藤代表はこう言う。「我孫子の原風景を守っていくには、地域力が必要。手賀沼ファームは、市民が農業に参入する一つのチャレンジだ」(永井啓子)