12月20日11時33分配信 産経新聞
原油高や暫定税率の失効などで大きな価格変動に見舞われたガソリン業界。追い打ちをかけるような金融危機による景気減速の影響で、客足も落ち込んだ。「これほど価格に振り回された年はなかった」と給油所経営者らは困惑顔だ。
競合店がひしめく大阪府泉南市の幹線道路沿いの「角丸石油ガスSS」には、店頭の看板に吸い寄せられるように乗用車が訪れる。
同市内では12月初旬に、90円台の給油所が登場。同店は12月7日に100円から97円に値下げし、13日に95円、19日にはさらに93円まで下げた。
石油情報センターによると、全国平均の店頭価格は8月に185円まで急伸した後、下落。近畿2府4県の平均価格(15日現在)も114円になった。同店の岡村智弘社長(37)は「まさに階段を転げ落ちるよう。上がったり下がったりと翻弄(ほんろう)され続けた」と苦笑する。
始まりは、暫定税率が失効した4月だった。品切れを警戒し、3月末には500万円の損失覚悟でタンクをほぼ満タンにして備えた。順番待ちの車の列で渋滞を引き起こし、警察が出動するほどの騒ぎになった。
その後、原油価格は上昇する一方で、同店も10月中旬には168円の最高値を記録。しかし原油価格の下落とともに状況は一変し、今度は11円、9円…と下げ続けた。
だが、長引く価格高騰の影響で、消費者には車離れと節約志向が浸透。今秋以降の景気低迷で、客の財布のひもはさらに固くなっている。「ガソリンが安くなって助かりますが、不景気で家計も無駄遣いできないので仕事以外では車は使いません」と給油に訪れた大阪府岬町の女性会社員(62)。
売り上げが伸び悩む給油所が多い中、安値の同店はむしろ昨年より増えているという。岡村社長は「利用者は1円単位にも敏感。損を見越してもいち早く値下げしないと乗り遅れる。言葉は悪いが薄利多売ですよ」と話す。
一方、「客足は戻りつつあるが、これまでの打撃が大きすぎる」と語るのは、大阪府内の激戦区のひとつ堺市にある給油所店長(60)。今年の販売量、売り上げともに昨年を2割ほど下回るとみている。この店も周辺の競合店と同様、12月に入って97円まで値下げした。「今後下げるとしても1、2円くらいがギリギリのラインでこれ以上は下げられない」
安売りが続けば、当然利益率も低くなる。これまでに競合店のうち数軒が閉店した。「景気も悪いし、価格が今後どうなるかもわからない。価格に振り回された1年だったが、来年はもっと悪い状態になるのではないか」と店長はため息をついた。