年の瀬の観光地 直撃

17日夕から18日にかけて相次いだ伊豆半島東方沖を震源とする地震で、県内では伊東市で17日深夜と18日朝の2回、震度5弱を観測した。同市内では負傷者が出たほか、建物の一部が壊れるなどの被害が出た。伊東はこれから年末年始の書き入れ時。不況のなかで迎える年の瀬に地震が追い打ちをかけることにならないか、観光関係者は客足への影響を懸念していた。

 伊東市災害対策本部によると、18日午前4時頃、同市岡で、地震の揺れのため男性(78)が自宅2階の階段を踏み外して転落し、腰を骨折した。また、県警によると、18日朝の2回目の震度5弱の地震で、同市馬場町でゴミを出そうとしていた女性(65)が転倒して腰を打ち、病院に運ばれたが軽傷。県危機管理局のまとめによると、17日夕以降の一連の地震のため、18日午後4時の時点で市内で7人が負傷した。

 17日夜の1回目の震度5弱の地震で、「伊東ショッピングプラザデュオ」(伊東市玖須美元和田)では、2階屋上にある水槽の配水管が破損し、スプリンクラー用の水が噴き出して天井や階段を伝い、1、2階の店舗部分に流れ落ちた。

 「デュオ」には雑貨、食品など47の専門店が入っており、各店の経営者や従業員が駆けつけ、余震が続くなか、夜を徹して水をかき出す作業やぬれた商品の後片づけなどに追われた。約4万冊の書籍・雑誌を取り扱っている2階の書店「サガミヤ」では、本棚から多数の本が床に落ちてびしょぬれになり、床に2センチほどたまった水を5、6人の従業員がモップなどでかき出したり、ぬれた本を拾い上げたりしていた。

 「デュオ」を管理・運営する伊東商業協同組合の沼田渉(わたる)理事長(66)は「揺れがドーンと来て、すぐに駆けつけたが、水の被害に遭うとは」と表情をこわばらせていた。

 2回目の震度5弱の地震後に市内の大型スーパーを訪れた同市桜が丘の主婦(40)は、「昨夜は揺れで何度か目が覚めた。小学生の子供たちも怖がっていた。とにかく早く終息してほしい」と話していた。

 市内では民家のブロック塀が倒壊したりホテル通路のガラスが割れたりするなどの被害が出た。県のまとめによると、水道管の破裂8件、家屋の一部損壊50件などの被害があった。

(2009年12月19日 読売新聞)

耐震改築の藤沢西高、学校名物を写真集に

藤沢市大庭の県立藤沢西高の校舎や体育館の壁、階段などは、10年間にわたって生徒たちが描いた約100点の壁画が飾る。その校舎と体育館で昨秋、耐震強度不足が判明し、建て替えや大規模補強が必要になった。「学校の象徴が壊される前に記録に残そう」とPTAと同窓会、学校が写真集を作り、17日、完成を発表した。

(山本真男)

  壁画は1998年、同高の美術教師植木孝二さんの指導で始まった。植木さんは若いころ、ニューヨークの街の巨大壁画に出会っていた。最初は美術部から広がり、美術の授業に採用された。

  通りかかる人たちの目をひく東棟外壁の絵は00年から2年がかりで描かれた。熱心な教え方で慕われた植木さんが05年、病気で亡くなった後も、伝統は引き継がれた。

  描く場所は生徒たちが自分で決める。

  東棟は建て替え、西棟と体育館は大規模補強の予定。それでも昨年度、建て替えられる東棟の柱の4面に床から天井まで描いた生徒がいた。そんな情熱をPTAが文化祭でバザーを開いてペンキ代を援助したり、足場を組む資金を同窓会が支援したり、と周囲が支える。

  「校舎が美術館のようになっている。姉が描いた絵を見て、下の子が入学してきたり、卒業した後、在学中に完成しなかった作品を描きに通ったり」とPTAの永井洋一会長はいう。

  写真集づくりはPTA、同窓会、学校の12人で委員会をつくり、今年5月にホームページに提案文を発表した。写真館に撮影を頼み、色があせた作品は当時いた教師が写真を提供した。

  A4判、オールカラーの49ページ。建物の各階ごとに壁画の位置を示した配置図に始まり、人物、動物、風景、デザインなど様々な作品を年を追って紹介する。今年度、制作中の作品も収められた。作品一覧や制作風景の写真、好きな壁画アンケートもある。

  写真集に寄せた文で、東棟外壁に描いた当時の校長は、足場を外した時を「生徒と一緒に下塗りした夏の日々が蘇(よみがえ)り、涙が止まらなかった」と振りかえる。植木さんの遺族は「さらなる新たな壁画を育む資料になる」と記した。

  写真集は2千部作成。学校関係者に実費700円で譲るほか、市内の図書館や地区のセンターに贈呈する。問い合わせは藤沢西高の壁画写真集作成委員会(0466・87・2151)へ。

出火当時、猛煙の恐怖を語る 浜松・マージャン店火災発生から1カ月

4人が死亡、3人が重軽傷を負った浜松市中区高丘東のマージャン店「金ちゃん」の放火とみられる火災は、17日で発生から1カ月。2階の隣り合った卓でマージャンをしていた8人の明暗を分けたものは何だったのか。店内から避難して無事だった客の男性は、迫り来る猛煙の恐怖を振り返った。

 「煙を吸って、ど苦しかった。だから死んでもいいと思って息を止めたんだ」

 1階に降りて火災に気づいた従業員の「火事だ」の声で、別の従業員が階段へ向かった。男性も後に続いた。従業員は二、三歩降りたところで立ちすくんでいた。煙がすごい勢いで上がってくる。

 「おえっ」。2人とも、もろに煙を吸い込んだ。直後、風船が割れるくらいの音量で「バン」と破裂音。店内は真っ暗になった。男性は呼吸を止めて約4メートル離れた窓へ。従業員も懐中電灯を探しだし、先を照らしながら男性に続いた。

 後に男性は、この従業員も呼吸を止めて避難していたことを聞かされた。「2、3回吸ったら助からない。明かりがついているうちにそう気づいたから、巻かれずに済んだんだ」と男性は話す。

 位置的には、焼死体で見つかった3人が囲む卓の方が窓に近かった。約1・5メートル、大またで二歩の距離だ。それでも3人とも、卓のそばで倒れていた。「大量の煙を吸って倒れ、焼死した」。司法解剖の結果も、暗がりの中、襲ってくる煙の恐ろしさを物語る。

 偶然も運命を分けた。男性によると、窓から脱出した客ら4人のうち、2人が転落していた。1人は全身強打による多発損傷で死亡した村上雍矩(やすのり)さん(64)。

 男性が地面に倒れる村上さんを介抱しているすぐ横に、別の客が落下してきた。「たまたまそこに自分のミニバイクが置いてあって、彼はそれがクッションになって助かったと言っていた」

    ◇

 浜松中央署捜査本部は放火の疑いが濃いとみて、これまでに延べ2100人の捜査員を投入。現在も1日80人体制で捜査を続けている。店の従業員や常連客ら約100人への聞き込みを終えた。

 情報提供を求める電話=フリーダイヤル(0120)211038=へは2件しか寄せられていない。捜査関係者は「ささいな情報でもいいのでお願いしたい」と話している。

旭川実、初戦突破めざす

■全国高校サッカー道代表
■沖縄・南風原と対戦 守り信条、室内練習場で磨く

 第88回全国高校サッカー選手権大会は、30日から東京・国立競技場などで開催される。道代表は9年ぶり2回目の出場となる旭川実。1回戦の相手は、攻撃力に定評がある初出場の南風原(はえばる)(沖縄県南風原町)だ。「南北対決」に向けて選手たちは昨年完成した室内練習場で練習を重ね、前回は実現できなかった初戦突破を目指している。
(斎藤茂洋)

 午後4時近くになると、授業を終えた約30人の部員たちが、雪に覆われたグラウンドの脇にある室内練習場に集まってきた。人工芝の上で体をほぐし、「よし、集中!」と元気に声を合わせて練習が始まる。選手権を前に、実戦を意識した練習を中心にしている。

 室内練習場は、昨年秋に完成した。大型のビニールハウスで、縦25メートル、横10メートルほど。蛍光灯が室内をともす。

 それまでは、校内の階段や廊下で走り込みし、バレーボールなど室内競技が終わった後、体育館でボールを追った。だが、室内練習場なら人工芝の上で動くことができ、富居徹雄監督(37)ら指導陣は「冬もこうしてボールに触れる違いは大きい」と語る。ボールをコントロールする力が向上し、夏の全国高校総体や今大会の出場に結びついた一因だと分析する。

 昨年のチームは、J1横浜F・マリノスに入団したGKの阿部陽輔選手ら、技能の高い選手が多かったという。富居監督は「それに比べ、今年の選手は下手」と言う一方で、「こつこつやれる。いいまとまり方をしている」とチームの特徴を評価する。選手には「ミスをした選手を助けられるプレーが出来ない選手は、いらない」と指導し、選手同士を競わせている。

 MFの串橋剛志主将(3年)は「全員がゴールを狙い、ゴールを守る試合をしたい」と意気込みを語る。対戦相手は攻撃力を誇る沖縄代表だが、「自分たちの持ち味は守備。しっかり守って無失点で勝ちたい」と、2回戦進出を狙っている。

 チームは18日に旭川を出発。関東で練習を積み、31日午後、千葉市のフクダ電子アリーナで初戦に臨む。

県総合文化センター立体駐車場建設へ 予算6億円を要求

県生活・文化部は、津市の県総合文化センターに立体駐車場を整備する方針を固め、来年度当初予算に建設費約6億円を要求した。14日の県議会予算決算委員会で示した。

 文化振興室によると、同センターの来館者用駐車場は現在、約1400台分。駅から徒歩25分ほどの場所にあるためマイカー利用者が多く、公演や催事が重なると満車になり、付近住民から渋滞や路上駐車の苦情が寄せられることも多い。

 駐車場の一部約230台分は2014年度に開館予定の新県立博物館の用地で、建設工事が始まると使えなくなる。不足分を補うため、11年度までにセンター前の平面駐車場を立体にし、高齢者らが階段を使わず入館できる直結通路も設けることを計画した。

 規模は2層3段か、3層4段を検討中で、総事業費は約8億円を見込んでいる。議員から「他の事業に優先してやるべきことなのか」と疑問の声も上がったが、同室は「長年の課題だった駐車場不足を解消でき、利便性の向上にもつながる」と必要性を説明した。

 予算決算委では、県の来年度当初予算編成に向けた各部局の要求状況が説明された。一般会計の要求総額は6913億円で、本年度当初予算より217億円多くなっている。

 (平井一敏)

韓国・釜山の射撃場火災:笠原さん、階段途中で救出 被災場所で明暗

【釜山(韓国南部)西脇真一】釜山市新昌洞の室内射撃場「ガナダラ実弾射撃場」の火災で、重傷を負った長崎県雲仙市の笠原勝さん(37)は、2階の射撃場から1階に下りる階段の踊り場付近で救助されたことが17日、関係者の話で分かった。火災は射撃場と外部をつなぐ唯一の出入り口に近い場所で発生しており、踊り場より奥の人は逃げるのが難しかったとみられる。

 警察当局は10人の死者の大半が大量の煙に巻かれた窒息死だったとの見方を示した。また室内のごみ箱に吸い殻が捨ててあったとの情報もあり、火災との関係を調べている。

 笠原さんは警察に対し、出火当時、射撃を終えて出入り口から約3メートルのトイレの前付近にいたと話している。

 報道などによると、笠原さんは「パーンと炎が控室の方に来た。すぐ階段で逃げたが熱風がひどく、やけどを負った」と病院で話している。出入り口に近い場所にいたかどうかが、明暗を分ける結果となったようだ。

【有馬記念】ブエナ、復活で09年締めだ

「有馬記念・G1」(27日、中山)

 中央競馬の09年ラストを飾る有馬記念(27日・中山)のファン投票最終結果が10日発表された。1位はウオッカ(鼻出血で規定により出走不可)の10万5059票で3年連続。2位にブエナビスタが入った。出走意思がある16頭(ファン投票上位10頭+賞金順上位6頭)に、過去10年で8勝の4歳馬の姿はなく、このままゲートインがなければ史上初めてのこと。逆に3歳馬は7頭。なかでも昨年10月の“伝説の新馬戦”を戦った1~4着馬がスタンバイ。1年2カ月の時を経て、最高のステージで頂点を競う。

  ◇  ◇

 若き女王の復活走で09年を締めくくる。10万を超える支持を集め、ブエナビスタはファン投票で2位に選出された。

 木曜は栗東坂路で4F71秒2を記録。前日には栗東CWで6F82秒4をマークし、翌日は軽めに登坂した。「落ち着いていた」と松田博師。10万票を突破したのはG1・7勝馬の1位ウオッカと2頭だけ。偉大な先輩にわずか515票差にまで迫った。牝馬でワンツーを決めて「人気があるのはいいことだな」と笑顔をのぞかせた。

 2戦目から5連勝。2歳女王、牝馬2冠と一気にヒロインへの階段を駆け上がった。新馬戦3着と敗戦からスタートした競走生活だが、上がり3F33秒5は勝ったアンライバルド(皐月賞馬)、2着リーチザクラウンを上回る、最速タイムと非凡な素質を示した。「ゲートも遅かったからな。(他馬と比べて)新馬向きではなかった」と冷静にとらえている。

 1年が過ぎ、3つの勲章を胸に運命のライバルと対戦する。当時の4着馬で菊花賞を制したスリーロールスも加わる豪華布陣に「すごいわな」と驚く。もちろん、今度は負けられない。「使うたびに大きくなっている。白ゼッケン(3歳秋以降の古馬が着用する調教ゼッケン)になって余計に大きく見えるな。トモに張りが出てきた」と成長した姿に目を細めた。

 札幌記念で2着に敗れて、海外挑戦を断念。国内に専念し、牝馬3冠のかかった秋華賞では2位入線も3着降着。エリザベス女王杯では先行馬を捕らえられず、3着に敗れた。女王復活の起爆剤として託されたのはダービー制覇など、大活躍の横山典だ。「声がかかったことは素直にうれしかった。これだけの馬ですからね。順調に本番を迎えてほしい。こちらはレースでしっかりと仕事をやりたい」と名手も初タッグを待ちわびる。3歳牝馬の勝利は、これまで60年のスターロツチ1頭だけ。ファンの夢を乗せて-。暮れの中山に素晴らしい景色が広がる。

博多座で躍動生きる力

■いじめ・戦争・・・「ハードル」越え
 いじめをテーマにした小郡市の市民ミュージカル「ハードル」が、福岡市の博多座に進出する。2007、08年に上演され、地元で反響を呼んだ作品だ。「もっと多くの人に見てほしい」と12、13日の本番に向け、約120人の出演者たちのけいこも熱を帯びている。(上山崎雅泰)

 「くっつきすぎ。舞台は広いから間隔を考えて」「動きをもっと大きく」。今月4日夜、小郡市の生涯学習センターであった通しけいこで、演出家の厳しい声が飛んだ。

 ミュージカルは同市内の音楽関係者らでつくる「小郡音楽祭実行委員会」の主催。メンバーは同市を中心に近隣の久留米市、福岡市、佐賀県鳥栖市などからオーディションで選抜された小学4年生から66歳までの70人と、ダンサー47人が加わる。今回の舞台のために6月から毎週末、けいこを重ねてきた。

 ミュージカルは、児童書「ハードル」「ハードル2」(青木和雄・吉富多美著)が原作。主人公の少年、有沢麗音(レ・オン)が転校先の中学校でいじめにあい、非常階段から突き落とされ生死をさまよう。学校側は事故と判断するが、生徒から真実を求める声が高まる。曽祖母から「大事なものを守るため声をあげればよかった」と戦争体験を打ち明けられ、麗音は生きる力を取り戻していく……。

 物語はいじめや家族愛、友情、差別、戦争など様々な問題が絡み合って展開されていく。過去2回の上演とも会場になった小郡市文化会館は満員で、入場を断った人も出た。上演後に出してもらったアンケートには「もう一度みたい」「ぜひ来年も」といった要望が多数寄せられ、反響の大きさから「それならもっと広い舞台で」と博多座での公演を目指した。

 九州を代表する劇場の博多座は開演以来、毎年12月は「市民檜(ひのき)舞台の月」として市民公演を受け入れている。ハードルは過去の実績など厳しい審査にパスし、舞台に立つことができた。

 主人公の麗音を3年連続で演じる明善高校1年、佐伯綾香さん(16)は今年6月、博多座で歌舞伎を鑑賞したといい「広さに緊張すると思うけれど、最初で最後だと思うから伸び伸びと演じたい」と話す。

 13日には特別ゲストとして吉田宏・福岡市長が市長役で登場する予定だ。自らも曽祖母役で出演する総監督の山崎三代子さん(55)は「脚本も見直してバージョンアップした。差別や戦争問題をもっと深く考えるきっかけにしてもらえれば」と話している。

 公演は12日午後5時半、13日午後2時の2回。チケットの問い合わせは小郡市文化会館(0942・72・3737)へ。

高島市(滋賀) 水田 再び魚の楽園に

「なれずしの起源は水田稲作と関係がある」と民族学者の石毛直道さんは語る。東南アジアでは雨期に川の水が田へとあふれる。「水が引く際に大量に捕れる魚の保存法として、なれずし作りが始まった」という。

 琵琶湖周辺でも、かつて似たことが起きていた。「昔は春先にコイやフナが産卵のため田んぼに上ってきていたんです」。針江地区の農家、石津文雄さん(61)はいう。餌となるプランクトンが豊富で外敵が少ない水田は、稚魚が育つには最適の環境だ。だが1960年代後半から、農業機械を使えるよう水田をかさ上げし、「水路との間の落差が大きくなって、遡上(そじょう)できなくなった」。

 ふなずしの材料になるニゴロブナが減った原因としては、外来魚のブラックバスやブルーギルによる食害が有名だ。水田の乾田化や、湖岸のヨシ原が埋め立てられたことで、産卵場所が減ったことも大きい。その結果、琵琶湖のフナ類漁獲量は65年の1104トンから、2007年には95トンにまで激減した。

 魚が産卵できる水田を取り戻そうと、県は06年度から「魚のゆりかご水田プロジェクト」を本格的に始めた。石津さんも参加農家の一人。水路に板をはめてせき止め、水位を10センチずつ上げて田んぼの高さまで階段状につなぎ、魚が遡上できる魚道を造る取り組みだ。

 農薬の使用も控えめにする。石津さんが耕作する14・5ヘクタールの水田のうち、9ヘクタールは完全無農薬。ドジョウにサンショウウオ、ナマズ、カエル……。石津さんの田んぼは様々な生き物のすみかとなっている。

 「ニゴロブナをたくさん増やして、ふなずしを安く食べたいという下心もあるんです」と笑う石津さん。父親が漁師で、ふなずしは身近な食べ物だった。「子供の頃はにおいをかぐのも嫌やったけど、50代後半になってから無性に食べたくなって……」

 県はニゴロブナ稚魚の放流や、外来魚の駆除も同時に行っている。効果は少しずつだが見え始めてきた。

 石津さんの案内で針江地区を歩いた。集落を流れる川には、青々とした藻が髪の毛のようになびいている。手を浸すときりりと冷たい。

 民家の庭先にある小屋をのぞくと、パイプから地下水がわき出して、床のいけすへとあふれ出ている。「かばた(川端)」と呼ばれる水場だ。集落の約110戸に同じものがある。

 いけすの中には大きなコイが数匹、悠々と泳いでいる。自宅のいけす前で野菜を刻んでいた三宅嘉子さん(76)は「かわいいもんや。カレーを食べた後の鍋を入れると、全部ねぶってくれるんや」と笑う。まな板を水で流すと、コイが集まって野菜くずをぱくぱくと食べ始めた。

 いけすの水は外の水路につながり、そこから川へ、さらに湖へと流れ込む。人々の暮らしも、琵琶湖を取り巻く水の流れに無理なく溶け込んでいる。

積水ハウス、LED照明を利用した革新的な住空間を提案

 世界中で『環境』に対する意識が高まる中、住宅最大手の積水ハウス は、第4世代の“あかり”として注目を集めているLEDを住宅に取り入れ、革新的な住空間の提案をスタート。その第一弾として、12月5日に関東・住まいの夢工場(茨城県古河市)に全灯LED照明のモデル住宅「くらしのあかり館」をオープンさせた。

  LEDは、長寿命、省エネ、さらに小型でありながら感度や制御性が高いという特性を持ち、携帯電話やデジタルビデオカメラ、道路表示器の表示用としてなど、幅広い分野で活用されている。一般家庭部門でのCO2排出量削減も大きな課題となる今後、政府は平成24年をめどに白熱灯廃止の方針を掲げており、一般住宅においても本格的なLED普及に向けた動きに拍車がかかりそうだ。

  そうした状況の中、同社は今年の春から販売を強化している環境配慮型住宅「グリーンファースト」の新たなオプションとして、長寿命で地球環境にもやさしいLED照明を積極的に採用。全灯LED照明にすることで、従来の白熱灯・蛍光灯併用の一般的な住宅と比べ、照明を利用する際のCO2排出量と電気代をともに78%削減できると試算している。

  今回、全灯LED照明を用いたモデル住宅の第一号としてオープンした「くらしあかり館」では、省エネ、長寿命という観点からだけではなく、さまざまな生活シーンにあわせた住空間の演出を提案している。同社の空間照明研究の成果とLEDの特性を融合し、住宅メーカーならでは視点で、時間によって変わる生活シーンに合わせて照明演出を工夫。例えば、食事のシーンでは、食材や食器を際立たせる点光源を追加し食卓をおいしく演出したり、主寝室では、同社独自の睡眠設計に基づき、生体のリズムを整える光を確立。また、階段に埋め込まれた小型のLEDライン照明が足元をさりげなく照らしたり、深夜のトイレは必要なあかりだけにするなど、状況や時間に合わせたあかりを設定。さらに高齢者の視覚特性に対応した間接照明で目にやさしい環境を設定するなど、ユニバーサルデザインも考慮した“あかり”環境を実現している。

  このようなLEDによる住空間演出は、同社と照明メーカーとのコラボレーションにより実現した。照明メーカーが販売する器具を住宅メーカーが採用し取り付ける従来の形態から脱却し、両社が企画・開発段階から協業することで、室内を照らす全般照明には不向きとされていたLEDを、壁や天井全体を照らす間接照明方式を採用することで主照明として利用できる光環境を作り上げた。暮らすための明るさを確保するというものではなく、建築と一体化し、季節や時間によって変化する生活シーンに合わせた“あかり”を確立したことで、革新的な住空間を演出することに成功したのだ。

  同社は、住宅業界初のエコ・ファースト企業として、「グリーンファースト」をはじめ、様々な環境に配慮した事業を展開している。今回の次世代を見据えたLED照明計画からは、照明器具が空間にあるという発想ではなく、どういう空間、シーンを演出したいかを前提に、“あかり”を空間デザインの一要素とするとのコンセプトが伺える。エコはもちろんだが、一歩踏み込んだ、住宅会社ならではのこだわりを持ち、“あかり”をコンサルティングしようとする同社の新たな挑戦が、住宅空間のこれからをどう変革させていくか期待されるところだ。(編集担当:北尾準)